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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)82号 判決 1967年11月07日

原告 佐々木吉之助

右訴訟代理人弁護士 青柳健三

同復代理人弁護士 佐々木良明

被告 渡辺鉄工建設株式会社

右訴訟代理人弁護士 中野公夫

同 大森綾子

主文

一、被告は原告に対し金五一五万八九〇四円およびこれに対する昭和三九年九月一七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四、この判決は仮に執行することができる。

事実

(請求の趣旨)

「被告は原告に対し金一、三三三万九九五九円およびうち金一一三三万九九五九円に対する昭和三九年九月一七日からうち金五〇万円に対する昭和四一年一月一七日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言。

(請求の趣旨に対する答弁)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決。

(請求原因事実)

一、被告は

1  訴外亀沢正治に対し、昭和三八年二月二一日金一〇〇〇万円を弁済期昭和四〇年二月二〇日、利息年一割五分、遅延損害金年三割の約で貸付けた

2  亀沢から次の記載のある約束手形二通をその各振出日に、それぞれ交付を受け、その所持人となった。

(一) 金額一五〇万円 満期昭和三八年二月二日 支払地、振出地とも松戸市、支払場所三菱銀行松戸支店、振出人株式会社常盤平ゴルフ練習場、取締役社長亀沢正治、振出日昭和三七年九月五日

(二) 金額一四八万一〇五五円、満期昭和三八年三月九日、振出日昭和三七年一〇月一一日、その他は(一)に同じ

ただし、右二通の約束手形の振出名義人株式会社常盤平ゴルフ練習場は実在しないから、亀沢正治個人が右手形の振出人としての責任を負うべきものである。

二、原告は被告から昭和三九年五月二〇日前記貸金の元金および利息債権ならびに約束手形債権を代金四〇〇万円で譲受け、右手形の引渡しを受けた。

三、しかるに、被告会社代表取締役渡辺清一は、亀沢に対し前記債権譲渡について通知をせずに、昭和三九年九月一六日亀沢との間において次のとおりの和解契約をした。

(イ)  被告は亀沢に対する前記貸金債権等一切の債権を金三二〇万円に減額してその余を放棄し、亀沢は被告に対し昭和四〇年二月末日限りその支払いをすること。

(ロ)  前記約束手形二通については、原告に対し、取立を委任したものであるから、被告は右委任を解除し、爾後右手形金の請求をしないこと。

四、原告は、右和解によって前記貸金債権および約束手形債権を消滅させられ、次のとおりの損害を受けた。

(イ)  前記貸金元本金一〇〇〇万円およびこれに対する貸付日たる昭和三八年二月二一日より不法行為の日である昭和三九年九月一六日までの前記約定利息金二三五万八九〇四円、合計金一二三五万八九〇四円。

(ロ)  前記約束手形金合計金二九八万一〇五五円。

(ハ)  本訴について、原告訴訟代理人に対し支払いを約した着手金五〇万円、成功報酬金一五〇万円、合計金二〇〇万円。

五、右損害は、被告会社代表取締役渡辺清一が職務を行うにつき原告に加えたものであるから、被告は不法行為に基き、あるいはそうでないとしても債務不履行に基き賠償すべきである。よって原告は被告に対し、(1)前項(イ)(ロ)(ハ)合計金一七三三万九九五九円から前記譲受代金四〇〇万円を控除した金一三三三万九九五九円(2)同項(イ)(ロ)の合計金一五三三万九九五九円から右金四〇〇万円を控除した金一一三三万九九五九円に対する昭和三九年九月一七日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金、(3)同項(ハ)金二〇〇万円のうち、すでに支払った金五〇万円に対する訴状送達の翌日である昭和四一年一月一七日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

一、請求原因一は認める。

二、同二のうち主張の約束手形二通を譲渡したことは否認するが、その余は認める。

右約束手形債権は1の貸金債権金一〇〇〇万円のうちに含まれているものである。

三、同三は認める。

四、同四のうち(ハ)は不知、同項のその余および同五は争う。

仮りに原告において損害を受けたとしても、その額は貸金一〇〇〇万について被告と亀沢との間でした和解金額である金三二〇万円が相当である。

(抗弁)

一、本件債権譲渡契約は、昭和三九年八月一〇日、原被告間において合意解除された。

二、原告は昭和三九年九月二一日、被告と亀沢間の前記和解契約を承諾した。

三、被告会社代表取締役渡辺清一は、本件債権譲渡契約が前記一のとおり解除されたものと信じて前記和解契約をしたものであるから、債務不履行について被告の責に帰すべき事由がない。

(抗弁に対する認否)

抗弁事実はすべて否認する。

(証拠)<省略>。

理由

一、被告が亀沢正治に対し原告主張の元本金一〇〇〇万円の貸金債権を有していたこと、被告が亀沢から、原告主張の金額合計金二九八万一〇五五円の約束手形二通の振出交付を受けていたこと、原告が昭和三九年五月二〇日、被告から右貸金債権の譲渡を受けたことおよび、被告は、亀沢に対し前記債権譲渡の通知をせずに、昭和三九年九月一六日、亀沢との間において、被告の亀沢に対する債権一切について、これを金三二〇万円に減額するとのほか原告主張の内容の和解契約をしたことは当事者間に争いがない。

原告は前記昭和三九年五月二〇日、被告から前記貸金債権とともに前記各手形債権をも譲受けたとし、前記和解によって右手形債権および貸金債権を消滅させられ、同額の損害を受けたと主張する。

しかしながら、仮りに原告が被告から右手形債権を譲受けたものとしても、前記和解がされたのは、原告において被告から右各手形の引渡しを受けた後であることが原告の主張によって明白であるから、右各手形債権については原告は亀沢から右和解によって消滅したことをもって対抗されることはないというべきである。また、前記貸金債権についても、債権譲渡通知のされない間に金三二〇万円に減額されたことによって、原告は亀沢から減額分の債権の消滅を対抗されることはいうまでもないけれども、右金三二〇万円の債務は残存するのであるから、前記のような和解がされたという一事のみによっては右金三二〇万円相当の債権が消滅に帰したとするいわれはない。

したがって、原告の本訴請求のうち、右手形金合計金二九八万一〇五五円および貸金のうち金三二〇万円合計金六一八万一〇五五円に相当する損害賠償と右金員に対する昭和三九年九月一七日から支払いずみまでの遅延損害金の支払いを求める部分は主張自体失当として排斥を免れない。

二、前記の争いのない事実と、<証拠省略>を総合すると次の事実を認定することができる。

被告会社代表者渡辺清一は、昭和三九年二月二〇日ころ、亀沢に対するゴルフ練習場建設請負代金および貸金の取立を原告に依頼し、関係書類として前記貸金債権に関する公正証書および前記約束手形二通を交付した。原告は直ちに事件を本訴原告訴訟代理人である弁護士に委任し、同弁護士は同年二月二七日ころ右約束手形二通について原告を所持人として亀沢に対し手形金請求訴訟を提起し、次いで同年五月二〇日原告は前記債権をそのまま譲受けて右訴訟を続けていたのであるが、同年八月一〇日の口頭弁論期日において亀沢は右各手形債権は公正証書記載の債権を一括して被告との間で金四〇〇万円を支払うこととして消滅した旨の主張をした。そこで原告は、被告会社代表者を追及したところ、同人は亀沢が金融を得る便宜のために仮装したことであって、真実債権を消滅させたものではないと弁解したので、同日原告、前記弁護士、被告会社代表者および同人の友人の藤谷松治らが会して亀沢に対する債権の回収について相談した。その結果、右弁護士は訴訟による取立を続行し、藤谷は知人の渡辺巖を使って右以降の手段で取立を強行するとのこととなり、右弁護士から藤谷に対し右趣旨で委任状を交付し、藤谷は渡辺に亀沢との交渉を依頼した。しかるに、同年九月一六日、被告会社代表者は亀沢の要求に屈して同人と前記和解をし、渡辺は藤谷、原告らになんらはかることなく和解契約書に立会人として押印した。原告らは右事実を知って同月二一日、亀沢、渡辺、被告会社代表者らと善後処置について協議し、席上、原告らは、亀沢に対し被告との前記和解を解消しあらためて、原告を債権者として双方弁護士立会のうえで和解をすることとの提案をしたのであるが、亀沢は弁護士に相談するといって確答を避けたので、原告らは渡辺に右の実現を約させて、その旨の念書を差入れさせた。ところが被告会社代表者は昭和四〇年二月一九日、亀沢との間において前記和解と同趣旨の即決和解をし、同年三月一五日亀沢から金三二〇万円の弁済を受けた。

以上の事実を認定することができる。

証人矢野、永宗、藤谷松治、亀沢正治の各証言、被告会社代表者の供述のうち右認定に反する部分は採用できなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実からすると、被告会社代表者は、原告に対する譲渡債権のうち、前記一において排斥した分を除くその余の部分すなわち貸金元本金一〇〇〇万円および右金一〇〇〇万円に対する昭和二八年二月二一日から昭和三九年九月一六日までの年一割五分の割合による約定利息金二三五万八九〇四円、合計金一二三五万八九〇四円から金三二〇万円を控除した残額金九一五万八九〇四円に相当する債権を前記和解によって失わせて侵害したものであるが、右は被告会社代表者が、被告会社の職務を行うにつきしたものであって、かつその故意に基くものというべきである。

三、被告は、前記抗弁(一)(二)のとおり主張し、証人矢野永宗、藤谷松治の各証言、被告会社代表者の供述中には右主張に沿う部分もあるけれども右部分は直ちに採用することができなく、他には右主張を認めるに足りる証拠はない。

かえって、前記二認定の事実に徴すれば、右各主張は容認することができないものといわざるをえない。

四、以上によれば、原告は被告の不法行為に基く損害として、他に特段の事情も認められないから前記金九一五万八九〇四円相当の損害を受けたものというべきである。

原告は、右のほか本訴における原告訴訟代理人である弁護士に対し支払うべき着手金、成功報酬について本件事実関係のもとに、被告の不法行為あるいは債務不履行に基き受けた損害として、その賠償を求めているけれども、右は被告の不法行為等に基く直接の損害とはいえなく、かつ被告において本件損害賠償請求に対し抗争したことをもって、いまだ不法行為にあたるというにも足りないから、右の請求は失当というべきである。

五、よって、原告の本訴請求のうち、被告に対し不法行為による損害金九一五万八九〇四円から譲受代金四〇〇万円を控除した残額金五一五万八九〇四円およびこれに対する不法行為の後である昭和三九年九月一七日より支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、<以下省略>。

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